ザ・フー

The Whoの新作アルバム「WHO」

投稿日:2019年12月13日 更新日:


本作は、ピートが2018年の休暇中に書き上げた曲をロジャーに送り、「新アルバム抜きでツアーはしない」決意を告げたことから始まった。しかし、ロジャーからは何ヶ月も返事がなかったという。その間、ロジャーは鼓膜を痛めていたため、聞くに聞けなかったらしい。

極めて個人的で妄想三昧だが、筆者はこの「アルバムとツアー」を巡るロジャーとピートの攻防戦をチラ見した気がする。もちろん実際に見たわけではない(笑)

2018年秋、個人的なイベントでロジャー・ダルトリー版の「Let My Love Open The Door」を使いたくて、ロジャーに直接頼んでみたら、快諾してくれただけでなく、親切にも未発表ヴァージョンの音源も送ってくれた。その時のメールに「君が言っているのがほんっとにこれだといいんだけど!」という文脈で 「I do hope」と、「do」のエンファシスが使われていたのだ。今思えば、ちょうど鼓膜を痛めていた時期だったのだろう。聞こえないのに、タイトルや波形で選んでくれたのかもしれない。その上「これじゃなかったら教えてくれ。他にもいくつかのヴァージョンがあるから、また探すよ」と。多忙なスーパースターなのに、ありえない親切さ・・・!

というわけで、ピートは返事をもらえなかったことに訝っているようだが、本当に耳が聞こえなかったんだと思う。気になりながらも直接聞けない、徹底的に割り切った関係なのだろう。

ロジャーのメールは、こちらの書いたことがポンッ!とツボにハマったらしい時(つまり、主張がある時)は長く、雄弁で、まるで一つのコンサートのようだ。全体の大きなフレーズの中に、パラグラフごとのクレシェンドとデクレションドがある。その時は「・・俺たちはまだ終わっていない」と締めていて、ピートとツアーのことで話し合っているのがなんとなく伝わってきた。

いつもこちらの思い描く「親切で寛大なロックスター」像を敏感に感じ取ってそれに合わせてくれる優しい人だが、その時だけは、仏の微笑みを見せていても眼の奥にチラッと光る炎のような、「ビハインド・ブルー・アイズ」のように、カチッとスイッチが入るのを感じたのだった。何度目の前で話していても、決して繋がることのない「何か」が通じた気がしたのを覚えている。(要するに怖かった)

その1年後、アルバム発売日に爆音鑑賞会をやることになり、参加者へのメッセージをお願いすると、ロジャー本人からの自信に満ちた言葉があった。「ロジャー・ダルトリーがQuadrophenia以来の傑作と言っているアルバム」と報道されていた件は本当だったんだ、とヒシヒシ伝わって来た。そして、そうやって前に進めるのは世界中のファンのサポートのおかげだ、ということも書かれていた。

その1年間、ロジャーはどんな心境だったのだろう。アルバム発表は正式発表よりも先に、マネージャーがラジオ番組でリークし、それからあれよあれよと決まっていった。

ピートの動機については色々報道されているものの、筆者はピートのアルバム発表初期のインタビューで、若いミュージシャンに「ザ・フーはいいよな、今までのヒット曲をやってりゃいいんだから」と言われたことに発奮した、というのが本当は近いんじゃないかと思ってる。更に、エド・シーランに対する対抗心(?)もメラメラと感じるのだ。「ウェンブリーをアコギ一本でやった」「ウェンブリー駅がエド・シーラン駅になった」などのピートの発言、そして同時期(2019年2月)にロジャーも彼のお抱え催眠術師とのインタビューでエド・シーランの成功について話している。「まだまだやれるんだ!」と奮起し、その後に「じゃあ何を書こうか」となって、「ザ・フーのためではなく、アルバムのためでもなく、ロジャーに曲を書く」ことになったんじゃなかろうか。

これにはピートがロジャーのソロアルバム「アズ・ロング・アズ・アイ・ハヴ・ユー」で自主的に7曲もギターをオーバーダブした事も多いに関係しているだろう。そこでもピートとロジャーは直接の連絡をとっていない。ピートはロジャーのプロデューサー、ディヴ・エリンガを通じて仕事している。このコンタクトが成功したことによって、「WHO」での二人プロデューサー体制がうまく働いたのは間違いない。そしておそらくピートは、ロジャー・ダルトリーというロック界稀代のヴォーカリストが自分の専属歌手であることの特権にも気が付いたのではないだろうか。何せロジャーのソロ作品は、ウィルコ・ジョンソンとのコラボアルバム以来、評価を増す一方だ。

ピートは送られて来たロジャーの迫真のヴォーカルに「そんなに頑張らなくてもいいんだ」と電話したくなる場面もあったという。

決して顔をあわせることなく、連絡はそれぞれのプロデューサーを通してのみ。職場の人間関係向上には羨ましいような環境である。それでもこの緊張感と臨場感はやはりザ・フーだからこそ。

ディヴ・サーディも、ロジャーのヴォーカルを担当したディヴ・エリンガも良い仕事をしている。特にディヴ・サーディの打楽器へのこだわりがフーらしい音作りに役立っている。ザック・スターキーに細かい指示を与え、癖をズバッと指摘し、キレを与えたと思う。それに応えたザックももちろん素晴らしい。

さて、この「Quadrophenia以来の傑作」は本当だろうか。是非聞いてみて、確かめて欲しい。

お気に入り曲の投票はこちら

テキスト・画像の無断使用を固くお断りします

Comments

> 前のページへ 

-ザ・フー

Copyright© <ザ・フー>The Who's Japanese Fans! , 2024 AllRights Reserved Powered by micata2.