ザ・フー

「ザ・フー『トミー』オーケストラル」

投稿日:2019年6月19日 更新日:


『トミー』は大好きなアルバム。

話し出すと小説かと見まごうような長いレビューになってしまうので、自制の意味でも国内盤ライナーノーツの訂正と補足にとどめておきます。

【間違いその1】
まず、訂正したいのはオーケストラ。
実際のライブで共演した「ハドソン・ヴァレー・フィルハーモニック・オーケストラ」は製品化に際して取り除かれ、新しく「ブダペスト・スコアリング・オーケストラ」に差し替えています。
これは一度限りの上演権を上書きする予算がなかったため。
オーケストラ部分は全てブダペストで新しく録音されました。


〈以下、メイカー・インフォメーションより〉

ザ・フーの代表作にしてロック・オペラの金字塔『トミー』は今年発売50周年を迎える。それを祝して、ロジャー・ダルトリーがオーケストラと共に『トミー』をパフォーマンスした2018年ツアーのライヴ・レコーディング・アルバム、『ザ・フー「トミー」オーケストラル』のリリースが決定した。

ロジャー・ダルトリーにとっては、10代の頃カヴァーしていたソウル・ミュージックを取り上げた原点回帰作『アズ・ロング・アズ・アイ・ハヴ・ユー』(2018)に続く1年ぶりの新作。

ザ・フー『トミー』は1969年にリリースされ、同年のウッドストックとワイト島フェスティバルなどで演奏された。70年代以降はバレエ、オペラ、オーケストラ、映画、ミュージカル(トニー賞5部門とローレンス・オリヴィエ賞3部門を受賞)と様々な形で、多くのゲストを迎え演奏/上演されてきた。

本作はロジャーが2018年のツアーでバンドと45人のオーケストラと共にパフォーマンスしたライヴ録音。バンド・メンバーは、サイモン・タウンゼント (G, Vo)、フランク・シムズ (G, Vo)、ジョン・バトン (B)、Scott Devours (Ds)、ローレン・ゴールド (Key)。オーケストレーションはデヴィッド・キャンベル(ボブ・ディラン、メタリカ、ベック、アデルなど)が担当した。

1969年ウッドストック・フェスティバルが開催されたニューヨーク州べセルと、ブダペストでレコーディングされた。

ザ・フーは2019年7月6日にロンドンのウェンブリー・スタジアムでオーケストラと共にライヴを行う。


上記の国内盤メーカーインフォメーションが発表になった時点で、ちょっと心配でした。なぜブダペストで録音したか、触れていないので。

国内盤ライナーノーツでは、「ハドソン・ヴァレー・フィルハーモニック・オーケストラ」になっていますが、これは「ブダペスト・スコアリング・オーケストラ」の誤りです。

この件に関しては、ロジャーのプロモ用インタビュー動画のいくつかで確認できます。元のオーケストラの提示額が高かったことを強調したいようです。

(12:18頃~)
https://youtu.be/eSM7WvkF8s4

(3:40頃~)

【間違い2】
若年性がん患者のための慈善団体「ティーンエイジ・キャンサー・トラスト」を発案したのは妻、とありますが、発起人はロジャーの主治医夫妻。ヘザー夫人ではありません。

【間違い3】
Frank Simes は「フランク・シムズ」ではありません。本人が「フランク・サイムズ」と日本語表記しているので、メーカー側で今後の訂正を徹底して頂きたいところです。

更に、Moving On!ツアーは本作のメンバーで構成されるだろう、とありますが、ご存知のように、フランクもスコットも抜けています。ライナーノーツ執筆時(2019年5月7日とある)にはもうツアーが始まっていたのだし、少しだけ手間をかけて検索していれば、上記の殆どは起こらない間違いだったでしょう。

とはいえ、全体的にロジャーへの一定のリスペクトも感じられるライナーノーツです。

尚、今回のアルバムからなのか、定かではありませんが、歌詞の和訳が大幅に変更されています。
Local Lad(地元の若者)が「村の若い衆」と訳され、個性的なものに。
歌詞の意味を考えると、「歓楽街ソーホーから観光地ブライトンまでを網羅した現役の若者インフルエンサーが驚愕する腕前」を表しているはずですが、「Ever since I was a young boy(幼い頃からまたは少年の頃から)」が「俺は若かった時」と訳され、まるで村のお年寄りが昔語りをしているようになっていて、それじゃ「若い衆」ではないのでは?と疑問に感じます。

日本人向けに分かりやすく上演される劇をイメージしたのでしょうが、改変劇ではないのですから、50周年でもあるオリジナルの雰囲気を大切にして欲しかったです。
(まだ全部に目を通していません)

ここからは自分の感想を。あくまでも個人の感想です。

まず、オーケストラの置き換えですが、大変良い仕事をしたと思います。

元々の楽譜があるからこそ、公演各地の地元のオーケストラが代わる代わる共演しても問題なかったように、後から加えたと知らなければ、まったく気がつかないレベルでしょう。

しかし、ユーチューブにある実際のライブ映像と比べると、ライブ特有の、ほんの僅かなダイナミクスさの面で物足りなさも。これについては個人差があるでしょう。

https://www.youtube.com/watch?v=Au31xWNDIvY

指揮者のキース・レヴェンソンのインタビューによると、ロジャーからの要望は「ドラムやベースのミキシングを大きくすること」ぐらいだったそうですが、ロジャー自身のボーカルには、殆ど手が加えられていないようです。ライブ時のタイミングの絶妙なズレも上手く調整してあります。

また、ロジャーの「トミー」ソロツアーというと、どうしても2012年の日本ツアーと比較してしまいますね。
あれは素晴らしい公演でした。

ロジャーの声は、7年前の当時と比べ、やはり経年の変化も見られ、深い声になっている箇所もありますが、技術的には円熟味を増しているようです。ライブで、しかもツアーでこの質を保てるのは驚異的でしょう。
「クリスマス」での「See Me Feel Me」の一節に幼いトミーが宿る、あの稀有な感覚は、オリジナルを聞いてファンになった時のまま。何の加工も施されていません。

今回のアルバムで、一番驚いたのは、サイモン・タウンゼントの存在が欠かせないことでした。
巧みなギター・テクニック、そして何よりあの高くてハリのある声がアルバム全体で素晴らしい働きをしています。思わず本人宛に賞賛のツイートを送ってしまいましたが、喜んでくれたようです。

来たるフーの新アルバムには、サイモンの曲も一曲加えられるようですが、大いに期待します。

色々な人を巻き込んで繰り広げられるザ・フーのアメージング・ジャーニー。

7月にはウェンブリー・スタジアム公演、9月からは北米ツアー第2レグ。11月にはいよいよ新アルバムの発表です!な、なんて元気なんだ・・・(笑)

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