映画「マイ・ジェネレーション〜ロンドンをぶっとばせ!」を試写会で見てきました。
既にUK版ブルーレイで鑑賞済でしたが、自分ならうまく訳せないと思った部分も綺麗にまとめてあり、勉強になりました。
一方で、語数の多い会話を省略した字幕が発声と噛み合っておらず、頭に入って来ないところもあり、日本語字幕は極力見ない様にもしました。
(更に欲を言えば、ツィッギーの「And they've never shut me up!」は、予告編では意訳されていますが、本編ではカット。ぜひ字幕にしてもらいたかったです)
多くの方が???な「ロジャー・ダルトリー」から「ロジャー・ドールトリー」へ日本語表記が変更されている点は、実際にスクリーンで英文表記と並べると
ロジャー ドールトリー
ROGER DALTREY
で、そこまで違和感はなかったです。
しかし、アーティストの利益を考えてしまう癖が染み付いているので、これがあの人物だと分かるように、レーベルなり、ブランドなりの公式表記が変わらない限り、一般に浸透したものを用いる方が、個人的には好ましいです。
この映画を見て興味を持った方が検索しても、表記違いで関連する商品や情報にたどり着けないのでは、出演者にとってメリットが少なくなるのでは、と気がかりです。
実際には「ドールトリー」だって全く違うし、違う言語の音を正確に表記するのは無理なのですから。
試写会では、字幕監修のピーター・バラカン氏が「(名前表記では)自分の希望を通すという条件で仕事を引き受けた」と仰ってましたが、その方針がこの映画の国内販促のスタイル全般に当てはまる気がします。
ストーンズの邦題「夜をぶっとばせ」を思わせるサブタイトル、アンデイ・ウォホールのようなポスター、ピーター・ブレイクっぽいブルズ・アイ(ターゲット・マーク)の意匠、 蛍光色満開のウェブサイト・・・。
悪いけど、何かスッキリしてない・・・。(すみません、好みの問題です)
後追いの担当さんが各方面のこだわりを断りきれなくて、何もかも一緒くたになってしまったのか?
あの、60年代の「白黒の世界がパッとカラーに変わった」感は一体どこへ?
UKオリジナルのデザインが良かっただけに、何とも不思議でしたが、実際に大きなスクリーンで映画を見ると、販促は集客であって、作品は作品、と割り切って観られました。
スクリーンで観て良かったのは、やはり音響ですね。音楽の使い方、歌詞と映像の組み合わせが効果的で、それだけでワクワクします。
そして、ザ・フーの名曲「無法の世界」をインスパイアさせた、あるアンダーグラウンド紙が一瞬映る場面。これはパソコンの画面だと気づかなかったです。
作品中のザ・フーは;
・ロジャーのインタビューは音声のみ
・ザ・フーやピートの映像はあるが、映画「ザ・キッズ・アー・オーライト」や「アメージング・ジャーニー」で既に公表されたもののみ(詳細はスクロールして下にあります)
・登場曲は「マイ・ジェネレーション」、ピートがプロデュースした「サムシング・イン・ジ・エア」、ハイ・ナンバーズ時代の「ウー・プー・パー・ドゥー」
・・・という具合に、目新しいものはないので、60年代の流れがわかっているファンであれば、おさらいとして観る感じでしょうか。
音楽、演劇、ファッションetc.と扱っている分野が幅広い上に、階級や世代、ユース・カルチャー、世相も詰め込んであって、しかも各部分が非常に短いため、時に散漫な印象も受けますが、もっと知識を広げたくなるようなきっかけにもなる良作です。
試写会では爆睡している方もいたので、お目当のアーティストらのレア映像やインタビューを期待していくと多少がっかりするかもしれません。
そして、歌詞が同時に映し出されるイベントの映像に関連しているのですが、スクリーンだと歌詞が載らないため、何の出来事か分からない箇所もあるでしょう。
登場人物としては、マイケル・ケイン、デイヴィッド・ベイリー、ロジャー・ダルトリーらの「プロ・ブレグジット(EU離脱急進派)」と呼ばれる面々が揃っていますが、マイケル・ケイン以外、誰も老いた姿は見せません。
ガーディアン紙レビュー(5点満点の3点)によれば、マイケル・ケインが彼らの「ショッキングなほど」老けた姿で観客をびっくりさせたくなかったそうですが、作中のメッセージ(若さとは心の持ちよう)を考えれば、その時代を生き抜いた勇姿と刻まれた皺を見せてくれても、と少し違和感が残ります。
階級制度のバリアに焦点が当たっているかと言えば、明らかに労働階級とは程遠いマリアンヌ・ファイスフルのインタビューが一番多用されていたりします。
そのため、最初にブルーレイで見たときは、この映画はもしかして「未来もブリティッシュ・インヴェイジョンに」「変化を恐れるな」というブレグジット推進派の隠れたメッセージかと深読みしたほど。実際にスクリーンで見ると、音楽に気を取られ、そこまでは感じなかったのですが。
もし、ザ・フーを深く知りたいという方であれば、ザ・フーのアルバムというのは、一見バラバラなようでいて、実は一枚一枚に繋がるコンセプトがあり、それはイギリス特有の文化や世相にも根ざしているので、60年代のムーブメントから70年代までの流れを楽しんで観て来て欲しいと思います。
特に、冷戦と核への恐怖、60年代後半のドラッグに関する映像は、ザ・フーの曲やピート・タウンゼントの未完のロックオペラ「ライフハウス」の背景を探る糸口になるかもしれません。
作中で使用された主なザ・フーの映像
- 1964年、ハイ・ナンバーズ時代にレイルウェイ・ホテルでキット・ランバートとクリス・スタンプによって撮影されたライブ映像から「ウー・プー・パー・ドゥー」
- 1965年、テレビ番組「A Whole Scene Going」よりピートのインタビュー
- 1965年、ウェンブリーのGlad Rag Ball公演でのテレビ用収録映像
- 1967年、ドイツのシュヴァルツヴァルト(黒い森)でのプロモ映像
- 1966年ロンドンのIBCスタジ収録、1967年にスウェーデンでテレビ放送されたPopreportage From Londonよりピートのインタビュー
- 1967年モンタレー・ポップ・フェスティバル
など。
その他
エンディングのクレジットロールで映像の許可を与えた個人や団体が羅列されますが、そこにもロジャー・ダルトリー(「ハイ・ナンバーズ」の映像はロジャーが個人で購入したもの)と「ザ・フー・グループ」の名前がクレジットされています。
インタビューで登場するアラン・オルドリッジは、ザ・フーのアルバム「ア・クイック・ワン」のカバーイラストを描いていますが、国内版映画公式サイトには登場人物として名前がクレジットされていません。