ザ・フー

Quadrophenia オリジナルUK盤発売日をめぐる謎

投稿日:2018年10月28日 更新日:


ザ・フーの6番目のスタジオ・アルバム「Quadrophenia(邦題:四重人格)」が発売された73年、第四次中東戦争を機に、世界中がオイルショックに見舞われました。

そのため、トラック・レーベルから発売されたオリジナルUK盤(カタログナンバー:Track 2657 013)はわずか1000枚、増盤には数週間かかったとも言われます。

バンドは全くアルバムを聞いたことがなく、かつアルバムで扱うモッド・カルチャー(60年代)も知らずに育った世代のファンにアルバム販促ツアーを行わなければならなかったのです。

更に、テープを使ったテクニカル面での都度重なるトラブルに加え、アルバムの物語を曲ごとに観客に解説するため、しばしばライブの流れが停滞、次第にセットリストから「四重人格」の曲が外されるようになっていきます。

素晴らしいアルバムであるにも関わらず、2012年の「四重人格」完全再現ツアーが成功するまで、「四重人格」を冠したツアー(1973、1996)は、世界中で熱狂的に支持されたとは言いがたく、アメリカでモッド・カルチャーへの理解が進まなかったことも手伝い、相応しい評価を受けてきませんでした。

それに加え、月日が経つにつれ、オリジナルUK盤の発売日の記録が曖昧になり、今では色々な説があります。その幾つかを今後のために記しておきます。

ザ・フー公式掲示板でも情報を募りました。このページの下にリチャード・エヴァンス(バンドの長年のアート・デザイナー)とUS盤ライナー・ノーツを執筆したブライアンの説を載せておきます。現在最も有力な説になっています。

thewho.com
1973年 11月とのみ記されている

discogs.com
発売日について記述なし
https://www.discogs.com/The-Who-Quadrophenia/master/68475

musicbrainz.org
https://musicbrainz.org/release-group/9b191575-fa1f-3531-bff5-121782318972
11月16日

The Who On Record by John Atkins (p.283)
11月16日

Anyway, Anyhow, Anywhere by Andy&Matt (p.273)
10月22日の項に、「Quadrophenia debuted on New York radio three days before it's US issue by MCA(『四重人格』は、US盤がMCAから発売される3日前、ニューヨーク・ラジオでデビューを果たした)」とある。 ディスコグラフィの章にはUK盤「Track 2657 013」の発売日に関する記載がない。

Wiki(グローバル)
サンフランシスコの評論家、Richie Unterbergerが書いた本「Won't Get Fooled Again」の232ページを参照して10月26日と記載されているが、実際は、そのページには何も発売日に関する情報がない。
https://en.wikipedia.org/wiki/Quadrophenia#CITEREFUnterberger2011

Wiki(日本版)
日本版Wikiでは、上記「Anyway, Anyhow, Anywhere」 の邦訳版を参照し、10月27日MCAのUS盤が先行し、11月2日にUK盤が発売されたように書かれているが、英語版原本にはオリジナルUK盤の発売日に関する記述はない。

ピート・タウンゼント自伝「フー・アイ・アム」
発売日について記述なし

ロジャー・ダルトリー自伝「Thanks a lot Mr Kibblewhite: My Story 」
発売日について記述なし

US盤ライナー・ノーツby Brian Cady 
10月26日 この解説の「オイルショックにより、最初の発行枚数が少なかったため、UKファンに行き渡らなかった」というのが、現在最も有力な説になっている。

Quadrophenia US ツアーパンフレット 2012年版
10月19日

Quadrophenia: Can You See The Real Me (ドキュメンタリー by BBC)
https://itunes.apple.com/jp/movie/the-who-quadrophenia-can-you-see-the-real-me/id691084215
幾つかのオイルショックに関するBBCニュースアーカイブ放送の後に、「今週末にダブル・アルバムが・・・」とナレーションが入る。1973年のカレンダーを参照すると、10月19日と10月26日が金曜日であることがわかる。オイルショックが始まったのは10月17日~19日。

英音楽雑誌NME1973年10月22日号
アルバム発売先行レビュー が掲載されているので、それ以前の発売ではないと分かる。

 

ザ・フー公式掲示板での結論:

US盤ライナー・ノーツを書いたブライアン・キャディによると、実際にロンドンのレコード店でアルバムを入手したファン達によって、10月26日に発売されたのが確認されているそうです。しかし、オイルショックのために生産が滞り、世界的に完全発売されたのが11月2日ということです。アート・デザイナーのリチャードも11月2日をこのカタログナンバーの発売日としています。よって、公式発売日は1973年11月2日という事で決定!

尚、この11月2日というのは、バンドの「四重人格」UKツアー4日目だったそうです。

ブライアンのように、ザ・フーに関する仕事をするにあたり、調査のためにあらゆる努力を惜しまないプロフェッショナルが海外にはまだまだいます。彼らによって明らかになった新たな事実に追いつくには、日々アンテナを張り巡らせ、ネットワークを大事にするしかありません。その代わり、ジグゾーパズルのように、最後のピースがピタリとはまった時はこの上ない満足感が得られます。このサイトもカタツムリ並にスローですが、いつかバンドを愛してやまない人達の信頼に耐えうるソースとなることを夢見て頑張ります!

 

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