ザ・フーのエジンバラ公演2回とロンドン公演を観て、
【エジンバラ公演初回】
ファンクラブ先行販売コードが届かなかったので、 一般販売でチケット購入。フロア席ではなく、ロジャー側2階席。 キャパは約8000人と小規模で、スクリーンが観やすかったです。
せっかくサイモン・タウンゼントが前座なのに、 開場時間を過ぎてもお城の下の街まで長蛇の列。 間に合った人は殆どいないのでは。
ピートはご機嫌で饒舌。
久々のスコットランドでの演奏ということで、「 ファンも自分達と同様に年をとっているが、 まだチケットを買えるのが嬉しい。 俺のラグジュアリーな生活のためにな」といつもの年齢ネタ。
雨が降っていたので、我慢強い観客を褒め、「 払い戻しがあってもいいくらいだ。...俺じゃなくて、 ロジャーの分からだぞ!」とも。
バンドセクションでは英国を意識したセットリストになり、 オーディエンスも大歓声。ここエディンバラでも、 核をなす支持層は労働者階級の方たちなんだと感じました。 酔っ払い多し。公演中も次々とビールを求めて行ったり来たり。
ロジャーが黄色の衣装を着ていたザックのことを「 ドラムのバナナ!」と紹介すると、同行者が「 そしてバナナの父は日本語で『リンゴ』...」と耳打ち。 それ以来、どうしてもザックといえばバナナを思いだし、 フルーツ・ファミリーを連想してしまいます(笑)
個人的には、『ザ・ロック』で2012年の『四重人格』 ツアーで使われたスクリーンが更新されたのを全編、 自分の目で確認することができ、涙が溢れそうでした。 このスクリーンは、亡くなった初代ウェブマスターのロブ・ リーが全身全霊を込めて作ったもので、当時、 色々と話しあったのを思いだしたからです。
その後に、『愛の支配』が始まると、 感情のローラーコースターに気持ちを抑えきれなくなりました。
ホテルに戻り、ロジャーにその事をメールすると、夜中の1: 45に返信があり、ツアー中の長く大変な1日が伺えました。
この日は約束していた英国ファンとオランダファンのうち、 オランダファンにのみ会えました。
そして、 キーボード技術者で拙著にバッグステージブログ日本番外編を書い てくれたブライアンに会うはずが、体調不良でキャンセル。 今回の奇妙な出会い 〜 会えると思っていたのに会えない一方、会えないと思っていたのに 会えた〜 の始まりです。
【エジンバラ2回目公演】
フロア席中間、ややロジャー側。
セキュリティが全員を座らせようとする一方、 管理人の直ぐ前列の席のファンが立ちっぱなしで踊っていたため、 ステージは全く見えず。 後ろの観客からはその女性を座らせるようにひっきりなしに促され 、音楽に集中できない、散々な日となりました。世界中を追っかける常連の最前列組は全くお咎めなし。最前列を座らせずにその後ろの観客を全員座らせようとするのは 無理があるのでは。
一方で、音楽的には、 前日の出来に大満足だったピートがこの日も機嫌良く、 パフォーマンスにもそれが現れていたようです。ギターのリフもちょこちょこ変化しているのが分かりました。
日本公演でもやっていたように、ピートお得意の「じらし」を発動。UKツアーのオーケストラは「The Heart of England Orchestra」が担当するのですが、イングランドとエジンバラをわざと間違え、チェロ奏者のオードリーの名前を忘れた振り。
開演直前に米国人女性に名前を呼ばれ、 一瞬誰か分かりませんでしたが、今の公式サイトが始まる前の、 2006年頃のツアーに特化したウェブサイトで良くやりとりをし たファンでした。当時高校生だったのが、結婚し、 今は次の世代にザ・フーを教えているそうです。 長年公式サイトに関わっていると、若い世代がザ・ フーに夢中になる姿や、 成長してその後の人生まで垣間見させてもらうことが出来るのが、 光栄なことの一つです。
【ロンドン公演】
コロナの影響により、 従来の会場が奪い合いになったせいで屋外が多い今回のツアーでは 、珍しい屋内アリーナ会場。 VIPチケットで最前列を購入したものの、 当日まで正確な席番号は不明。専用グッズ、サイン付きアイテム、 バックステージ・ツアー、グッズ購入優先権が付くはずでした。 公演前の軽食も段取りが悪く、 サイン付きアイテムも要求するまで存在が忘れられていたようでし た。グッズ専用レーンも特にアナウンスなし。
この日はウェブマスターでアート・ ディレクターのリチャードと会うはずでしたが、 会場に入るとインターネットが繋がらず、 これもまた会えずじまい。ゲストパスの受け取りに一時間半かかったそう。
最前列に行くと、自分たちの席の前の手すりに既に誰かが!同行者が「ここは自分たちの位置なんですけど?」と告げると「 君は向こうに行ったらいいじゃん?」と口論になり、 セキュリティーが間に入って、チケットの席を確認してもらい、 無事に確保。
真ん中の通路には他の列のファンが押し寄せ、カオス状態。
見える範囲内の最前列でマナーが良かったのは管理人とその隣の独紳士と同じ並び の仏カップルの4人だけだったと後で言われました。(同行者はその後もずっと体格が良く背の高い黒人男性と押し合いバトル。「通勤で鍛えられた日本人、なめんなよ!」と追い出していました)我々はロジャー側スピーカーの真ん前。爆音すぎて、 パフォーマンスが始まると、 セキュリティの方が個人で用意していた耳栓を渡してくれる一幕も 。
パフォーマンス自体は、 最前列でテンションが上がっていることもあり、 とても楽しい公演でした。 バックステージツアーではセットリストになかった『キャント・ エクスプレイン』が入り、 ロンドンっ子の満足いく公演だったようです。イン・イヤー・ モニターの不調で『ビハインド・ブルー・アイズ』 のやり直しをロジャーが主張した時、 またもや年齢ネタでジョークをかましたピートですが、 よく見ていると、真っ先に「そうしよう」と応じていて、 ちゃんと仲間を気遣っているのが伝わり、じわり。
【Taproom】
昨年と同じく、キース・ ムーンの映画の脚本を担当するナイジェル・ ヒントンが最寄り駅まで迎えに来てくれ、 まずは映画の話をたっぷりと。
ロジャーの頭の中に浮かぶヴィジョンをナイジェルが可視化していく工程を聞かせてもらい、ブレイン・ ストームを活性化する小道を見てきました。
去年は試さなかったビールにも挑戦。 これが本当に爽やかな香りがして実に美味い!
ロジャーの息子さんのジェイミーにもご挨拶。
事前にロジャーには知らせていたものの、ツアー中だし、 さすがに今回は会えないだろうと思っていたのに、またしても! 来てくれました!本当にファン思いのスーパースターです。
「お前、元気そうやんけ!」とロジャー。(脳内関西弁)
「前日のO2公演にいたんですよ」と言うと、即座にロジャーが「 気がついてたよ。(日本式に)お辞儀したろう? いつもお前さんを見かけるとお辞儀してるぞ」と。え、 今まで全然気がついてなかったんですけど(笑)
お土産に日本酒を渡すと大喜びで、 同行者に適温の飲み方などを聞いていました。 日本酒は大好きだそうです。
ロジャーの牛さんにお迎えしてもらったので、政治の話は避けるべきなのに、 つい、うっかりと日本の酪農の苦悩について触れてしまうと、 ロジャーの瞳が輝きます。「おお、ここでも起こっているぞ!」 と酪農家としての雄弁を奮い始めそうでしたが、なんとか他の話題へ。ホッ。
同行者がジャケットを開き、ロジャーのTシャツを見せて、「 ロジャー・ダルトリーがロジャー・ダルトリーにご挨拶〜!」 と冗談を言うと、大ウケして「それ、二度とするなよ!」 と大笑い。
自分の写真が嫌いなロジャーは、 持参した拙著翻訳本でも自分の写真を見るたびに「うぎゃあ!」「 ぐわあぁ!」と叫び声。...ピューリッツァー賞受賞のウィリアム・スナイダーの写真なのに。しかし、日本公演に関する写真は「 覚えてる」と言って、じっくり眺めていました。
同行者が「ちょっと変なことを言ってもいいですか? オーケストラがすごく気に入りました。 楽器の音が海の波のように押し寄せてきて、 その波間をまるであなたがサーフィンしているように感じたんです 。そして『愛の支配』では、宇宙すら感じました」と言うと、 ロジャーは真剣な顔で頷き、「その通りだ。 あれは本物のオーケストラで、人工的な機器からの音じゃない。 それが自分の身体にも共鳴して、感情的に訴えるから、 自分も違う歌い方が出来る」と答えました。
せっかくのチャンスなので、「素晴らしいアレンジです。 是非是非『四重人格』をデヴィッド・ キャンベルのアレンジで全編オーケストラ化して下さい」 と頼むと、驚いた様子で「でもな、今『四重人格』 を全部なんて歌えるかな?80歳になるんだぞ」と言うので、 調子に乗って「あなたなら出来ますとも!」と言うと、「 うぎゃぁ」と動揺した様子。その顔には「 そんなに簡単に言うなよ!」と書いてありました。少し考えて、「 それじゃ、日本に持って行くのはどうかな?ウケるだろうか?」 と聞かれ、つい正直に「日本の若者はもうロックを聞かないので. ..」と答えてしまった私...。皆さん、ごめんなさい。「どちらかと言えば、 JポップやKポップを好むようです」と答えると、また「うへえ! 」ツアー中でハイテンションになっているのか、 私たちに慣れたのか、ロジャー、やたら感嘆符多し。去年よりも自然体。
ファミリーらしい写真を撮ろうということになり、 サンタさんのノリで膝を叩いて「ここへ座れ!」 と言われましたが、 その前に左膝に痛み止めの湿布(ユニオンジャック柄)をしているのを見せてくれていたの で、丁重にお断りしました。どうも平易な英語のためか、時々、 孫世代のように扱われているのを感じます。
夜に次の公演地へ旅立つそうで、 1年ぶりに間近で会ったロジャーは一回り小さくなったようにも見 え、足を引き摺り、疲れのためか、肌に精気がなく、 随分と年老いているように感じました。O2でもライトが落ちると足を引き摺っていたようです。
その晩に『レ・ミゼラブル』を観劇し、白髪の 主人公が椅子に座ったまま亡くなる場面で、 昼間に会ったロジャーの姿が重なり、 思わず涙しそうに。が、 その後のツアーの動画をチェックすると、『ピンボール』のイントロでもスッと立ち上がっている...。プロらしく足の痛みを感じさせない、さすがのパフォーマンスです。
去年は「80歳になっても続けるべき」と管理人が主張すると「もちろんだとも!」 と笑っていたナイジェルですが、 痛みと疲れに耐えている姿を見続け、「 それがいいことなのかどうか、わからないよ」と話していました。 貴重な時間を今年も私たちに割いてくれたことに、 感謝しかありません。
来年はいよいよ60周年。さて、ザ・フーはどうなるのでしょうか。 一つ一つの公演がとても貴重です。機会(と時間とお金) があれば、積極的に観に行きたいものです。さっ、節約、節約!
ロイヤル・アルバート・ホールに2018年設置されたロジャーのスター。2番扉と3番扉の間にあります。
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