Who Are You


テレビドラマ「CSI:科学捜査班」のテーマ曲としても使われ、フーを知らない人でも耳にする『フー・アー・ユー』。

「パンクの台頭とピートの葛藤」のエピソードは有名なのに、良くわからないところもあります。
そこでこの曲の歌詞について少し掘り下げてみます。

ツィッターでこんな『フー・アー・ユー』の訳詞を見つけました。
@20mosutaro Who Are You -|フー・アー・ユーの歌詞和訳 - http://is.gd/qLT9oO

脚注では
* Rollin’ Pin = パン生地をのす棒、転じて攻撃的な主婦などをあらわす。
* Rin Tin Tin = アカデミー賞にノミネートされたこともある有名な俳優犬。
* Tin Pan = アメリカ、ブロードウェイの一角の地名。
となっています。

どれも聞き慣れない言葉ですが、初めて聞いた時、どう解釈していましたか?

『フー・アー・ユー』に限らず、ピートの歌詞の解釈は多種多様。

歌い手であるロジャーの解釈が全く違うように、英語ネイティブスピーカーであっても国や人によって解釈が違うのです。
海外ではあまり歌詞付きで売られないため、良く聞き取れていないことや、インターネットのない時代の空耳を長年信じているケースも。

「Rin TIn Tin」が登場する部分の歌詞:

"I felt a little like a dying clown
but with a streak of Rin Tin Tin"

日本盤CDの訳詞や歌詞解釈本では(Rin Tin Tin=名犬リン・ティン・ティン=犬)になっていたかもしれません。

これには、ピストルズとのエピソードが起こった、ロンドンのソーホーで営業していた(セル・アウトにも出て来る)「スピークイージー・クラブ」で『Rin Tin Tin(カクテル、又はアルコールのスラング)』を立て続けに飲んだ、という説もあります。

「ロスト・ヴァース・ミックス」で発表されたバージョンの失われた二番の歌詞から、「Rollin Pin」を「Rollingstone誌、転じて『メディア』」と解釈する人もいますが、ロンドンの出来事なので、その辺はピート本人に聞いてみたいものですね。

同じくロンドンという背景から、「Tin Pan」がニューヨークのブロードウェイというのは唐突で不自然に聞こえます。
イギリスのザ・フーファンは、「Tin Pan」と言えばロンドンのデンマーク・ストリートにあったスタジオ「Tin Pan Arrey」を思い浮かべるようです。

デンマーク・ストリートのこの辺り自体が「Tin Pan Arrey」と呼ばれる地域で、楽器店、出版社、ミュージシャンらが集うカフェ The Giaconda、アルバムカバーを手掛けるデザイナー集団ヒプノシス(Hipgnosis)のオフィスなどがあり、当時の音楽業界に携わる人々はここで製作から出版まで一気に仕事を終えることが出来たのです。

 

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「Tin Pan Arrey」跡地を示すブルー・プラーク

 

 

 

 

 

(周辺のデンマーク・ストリートは現在、ロックにまつわる歴史的地区としての保護活動運動を展開中)

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同時にこれらの語句が全て架空の場所・事柄と捉える説もあります。
「聞き手に解釈の幅と創造性を与える」からこそ、ピートの作品は奥深いとも言えるでしょう。

『フー・アー・ユー』の『ユー』って『誰』?

次は「ロスト・ヴァース・ミックス」から「『フー・アー・ユー』の『ユー』とは、誰?」を考えてみましょう。

以前、米ウェブサイトcracked.comの「有名曲の意味が変わってしまう、奇想天外な失われた五つの歌詞」に、ザ・フーの『フー・アー・ユー』が取り上げられました。
カットされたのは1996年発売のリイシュー盤にボーナストラック「ロスト・ヴァース・ミックス」として収録された2番の歌詞。

最近のライブではロジャーが「一緒に歌えよ〜♪」と呼びかけて始まり、会場の観客を次々と指差し、ピートが「これでもか!」と言わんばかりにウィンドミルでオーディエンスをメロメロにしてくれるこの曲、『フー・アー・ユー』の「Who」ですが、皆様は「誰」を意識して歌っていますか?

元々のコンセプトでは一体「誰」のことを指していたのでしょうか?

失われた歌詞:1:36頃〜
"I used to check my reflection, jumping with my cheap guitar
I must have lost my direction, cause I ended up a superstar
One-nighters in the boardroom, petrify the human brain
You can learn from my mistakes, but you're posing in the glass again

76年、ライブでジャムの一節から生まれた『フー・アー・ユー』は、インドのスーフィー思想に影響され、後にアルバム『フーズ・ネクスト』に曲が収録された未完の『ライフハウス』とも関連の深い曲と言われます。

1976年の雛形。

シンセサイザー部分は後のソロ作『 Meher Baba M4 (シグナル・ボックス)』(以下に添付)としても使われ、コーラス部分はスーフィー音楽をイメージさせます。

『Meher Baba M4』

始めにピートが考えていたのは、なんと、「路上で貧しい暮らしをする惨めな男」が、祈りながら「『誰』なのか、何処にいるのか、そして『神』とは一体何なのか?」を「神」に問うもの。

( 「Amazing Journey: The Life of Pete Townshend」by Mark Wilkerson, 「Who I Am」 by Pete Townshendより)

しかし、ロジャーのボーカルになると一変し、スピリチュアルな要素が影を潜め、よりアグレッシブで、リアリティが追求されています。

最終的に発表された作品は、ファンにはお馴染みの、

「ロイヤリティを巡る長い交渉の後に小切手を手にし、クラブで「セックス・ピストルズ」と会い、『自分たちはもう終わっちまった!』と小切手を破り捨て、泥酔して戸口で寝込み、警官に起こされる」

という内容で、実際にピートに起こった一晩のエピソードに基づいています。

cracked.comでは、「省かれた歌詞『音楽業界のロイヤリティ制度に憤慨するロックスター』も実体験に基づく話で、元々のコンセプトに近いものはあれど、一般の共感を得られにくいだろう」という記事内容になっていました。

以上で投稿を終えますが、曲に絶対の解釈はありません。ひとりひとりが個人的なエピソードに結びつけて慈しめれば、それが一番です。

皆様からの補足・訂正及び解釈をお待ちしております。

(ロンドンにあるスピークイージー・クラブ跡地。ジミ・ヘンドリクスを始め、数々のミュージシャンが通った場所)
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投稿日:2014年9月12日 更新日:

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